東京地方裁判所 昭和46年(レ)6号 判決 1971年12月20日
控訴人 くいだおれこと寺島英夫
被控訴人 株式会社三洋通信社
右代表者代表取締役 三宅美雄
右訴訟代理人支配人 本多節造
主文
原判決を取消す。
本件訴を却下する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 控訴人
原判決を取消す。
被控訴人の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
第二当事者の主張
(被控訴人)
一 請求原因
1 被控訴人は、デイリースポーツ新聞に掲載する広告の取次を業とする会社である。
2 被控訴人は控訴人との間で昭和四五年六月二日次のような広告掲載取次契約を締結した。
(一) 掲載紙 デイリースポーツ新聞
(二) 広告掲載日 昭和四五年六月一五日から連続四回
(三) 広告内容 求人広告
(四) 報酬金 四〇、〇〇〇円
(五) 支払期日 昭和四五年七月一五日
(六) 支払場所 被控訴人会社
3 被控訴人は右約旨に従って右広告の取次をなし、右広告は、前記各掲載日に四回にわたりデイリースポーツ新聞に掲載された。
4 よって、被控訴人は控訴人に対し、報酬金四〇、〇〇〇円とこれに対する弁済期の翌日である昭和四五年七月一六日から完済に至るまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。
(控訴人)
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、(二)、(五)の事実は否認し、その余の事実は認める。広告は、控訴人が定指した日から連続一〇回掲載する約であった。
第三証拠≪省略≫
理由
本件記録によれば、被控訴代理人である本多節造はデイリースポーツ新聞に掲載する広告の取次を業とする被控訴人の支配人の資格で、その訴訟代理人として本件訴を提起し原審および当審における訴訟の追行に当って来た(原審では被控訴人の全面勝訴)ことが認められ、≪証拠省略≫を総合すると、本多節造は弁護士の資格を有していない者であるが、
一 昭和四三年九月から、東京スポーツ新聞に掲載する広告の取次を業とする訴外株式会社日宣広告社の依頼を受けて債権の請求、それに関する重要書類の作成および、訴訟代理人として法廷に出頭すること等を担当して一か月五〇、〇〇〇円の報酬を得ていたが、昭和四四年二月一四日その支配人に就任してその登記を了し、そのころから、固定給は支給されず、訴訟費用、交通費、日当等は同人の負担とし、同人の働きにより得た金員についての歩合金を報酬として支給される約束で前記の事務を取扱っていたこと、昭和四四年七月九日会社の支配人の資格で訴外丸山庄二を被告として東京簡易裁判所に訴を提起し、以来同四六年四月九日東京高等裁判所で口頭弁論が終結されるまでその訴訟に訴訟代理人支配人として終始出頭してその追行にあたってきたこと、その間、同会社の主たる業務である広告取次の仕事には全く関与しなかったこと。
二 右会社代表取締役渡辺正生の紹介により、昭和四五年七月二七日から、被控訴人の債権の請求代理人として法廷に出頭すること、これに関連する重要な用件を担当し、固定給は支給されず、交通費、実費と日当一、〇〇〇円を支給され、従員会の規定により賞与を受ける約束で被控訴人の支配人に就任して前記の業務を取扱っていること(右同日支配人就任の登記完了)、被控訴人の主たる業務である広告取次の仕事には全く関与していないこと。
三 訴外株式会社日宣広告社代表取締役渡辺正生の紹介により、昭和四五年六月から、訴外広報こと五十嵐秀夫の依頼を受け、債権の請求のため、用紙代の支給を受けて六件について訴状を作成し、交通費および日当として五〇〇円を支給されて出張していたこと。
を認めることができ、≪証拠省略≫中、右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を動かすに足りる証拠はない。右事実によれば、本多節造は弁護士でないのに報酬を得る目的で、訴訟事件その他の法律事務を取扱うことを業としていたものであり、本件訴の提起および訴訟の追行はその業務の一部としてなされたものであることが認められる。
法律が支配人に裁判上の代理権を与えているのは、支配人が営業活動において包括的な代理権を有することから、その支配人の担当する営業活動に関して裁判上の問題が生起したときに、営業活動の一環として裁判上の行為についても代理権を与えておくことが、裁判事務の能率的円滑な処理に適するとの配慮に基づくものと認められる。従って、営業活動に包括的な代理権を与えられていないにもかかわらず、専ら裁判上の行為(これに付随する行為を含む)を代理させるために支配人に選任したとすれば、それはまさに弁護士法第七二条の潜脱を目的とするものというべく、そのような者は支配人ではないばかりでなく、その者によって代理された訴訟行為は全て無効であって、追認を許され得ないものと解するのが相当である。
してみれば、本件訴は不適法であり、その欠缺は補正することができないものといわなければならない。
よって、右の点を看過した原判決は不当であるからこれを取消し、本件訴を却下することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九六条、第八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西村宏一 裁判官 竹田稔 蓑田孝行)